年間第2主日《A年・B年》54 神の み旨を行うことは 【解説】 この答唱句の元となった詩編40(答唱句は9節を元に作られています)は、元来、二つの異なる部分からできてい ます。前半は2-11節で、病気から回復したことへの感謝の祈り、後半は12-18節で、そのうち14-18節は詩 編70とほぼ同じもので、個人的な嘆願の祈りです。聖書《七十人訳》では、6節の「人々の集い」を「エクレシア」= 「教会」の原語、10節の「告げ知らせ」を「福音を伝える」=後の「福音」の原語、と訳しています。これらは、新約聖 書をはじめ、教会ではなくてはならない、重要なことばとなっています。 答唱句の前半、従属文の部分は、「おこなう」が最高音(B=シ♭)を用いてことばを強調しています。続く「うこと は」では、一時的に属調のF-Dur(ヘ長調)に転調することで、丁寧にことばを語り、行う決意を呼び起こします。後半 は、すぐにB-dur(変ロ長調)に戻り、まず、「わたし」が最低音のCから始まり、謙遜のこころを表します。「こころの」 は、付点八分音符と十六分音符で、最後の、「よろこび」は音価が拡大(付点四分音符+八分音符)され、太字の部 分は最高音B(シ♭)によって、心(魂)が喜びおどる様子と、答唱句全体の信仰告白の決意を力強く表しています。 詩編唱は、終止音と同じ音から始まり、1小節1音の音階進行で下降して、開始音Fに戻り、作曲者の手法「雅楽 的な響き」の和音で終止します。バスのEs(ミ♭)は答唱句のバス(D=レ)とテノール(F=ファ)のオブリガートとなっ ています。 【祈りの注意】 答唱句全体の信仰告白は、聖母マリアが歌った「マリアの歌」(マグニフィカト Lk1:46-)に通じるものです。いつ も、この信仰告白の決意を持ち、神の み旨をわきまえることができるように祈りましょう。 「神の」を心持ち早めに歌うことが、この信仰告白の決意のことばを生き生きとさせます。メトロノームのように歌うと 逆にだらだらしますし、上行の旋律も活気がなくなります。「みむねをおこなう」は、現代の発音では同じ母音Oが続き ます。どの声部も同じ音で続くので「み旨をーこなう」とならないように、はっきり言い直しますが、やりすぎにも気をつ けましょう。「ことは」の後で息継ぎをしますが、この息継ぎは「は」の八分音符の中から少し音を取って、瞬時に行い ます。ここを、テンポのままで行くと、しゃっくりをしたようになります。この前から少し rit. すると、息継ぎも余裕を持っ てできますし、何よりも祈りが深まります。後半は、すぐにテンポを元に戻しますが、「こころ」あたりから rit. に入り、 付点のリズムを生き生きと、また、力強く歌って締めくくりましょう。この時、先にも書きましたが、聖母マリアの心と同 じこころで歌うことができればすばらしいと思います。なお、これらの rit. は、いつしたのかわからないように、自然に 行えるようになると、祈りの深さもましてきます。 〔A年〕 毎年、年間第2主日の福音朗読は、必ず、ヨハネ福音書が読まれ、キリストの宣教活動の始まりが告げられます。 今日、すなわち、A年は、ミサの平和の賛歌でいつも歌われている、「見よ、神の小羊」ということばから始まる、洗礼 者ヨハネのキリスト宣言とキリストの洗礼の場面です。ヨハネは「この方がイスラエルに現れるために、わたしは、水 で洗礼を授けに来た」(ヨハネ1:31)と言います。主の洗礼は、神ご自身が、キリストの宣教活動を宣言するために 行われたと言えるでしょう。それを見たヨハネは「この方こそ神の子である」と証しします。第一朗読のイザヤの預言 も、今日の詩編も、この、洗礼者ヨハネの証しを預言していると言えるでしょう。父と子と聖霊のみ名による洗礼を受 けたわたしたちも、ヨハネと同じように、「この方こそ神の子である」と証しします。今日の、詩編はわたしたち一人ひと りの心からの、祈りといえるものです。いつも、この詩編のことばを忘れずに、キリストに結ばれて、福音を述べ伝える 決意を新たにしてゆきましょう。 〔B年〕 この日の第一朗読ではサムエルの召しだしが、福音朗読では、後に教会の礎となった、ペトロとアンドレ兄弟の召 命が朗読されます。二人の、この召しだしによって転換した人生が、今日の答唱詩編の詩編唱に集約されていると 言えないでしょうか。それはまた、わたしたちキリスト者一人ひとりについても当てはまることです。詩編唱を歌う方は もちろん、それに耳を傾けるわたしたちも、この、詩編で語られる、わたしたちキリスト者に共通の「預言職」を、深くこ ころに刻みつけるようにしたいものです。 【オルガン】 答唱詩編としての本来の役目である黙想であるとともに、答唱句では、み旨を行う喜びを表すようなストップが用い られるとよいと思います。神の母聖マリアの祭日には、やや、明るめのストップをお勧めしましたが、この日は、神か らの呼びかけ=召命に答える、内面性を重視して、フルート系のストップで統一するとよいかもしれません。会衆の人 数にもよりますが、基本的には8’+4’、最後の答唱句は2’をプラスするか、詩編唱を支えた Swell をコッペルして もよいかもしれません。 《C年》 148 遠く地の果てまで 【解説】 詩編96は、やはり同じ答唱句で歌われる詩編98、および、次の詩編97とともに、王である神(主)たたえ、イスラ エルだけではなく、すべての民・すべての国がその到来を待ち望むことが言われ、《第二イザヤ》とも表現や思想が 共通することなど、非常に似た内容となっています。この詩編96は歴代誌上16:23-33に同じ詩が載せられてお り、「人々が神の箱を運び入れ、ダビデの天幕に安置し」(同16:1)たことと関連づけられています。 答唱句は、作曲者が「時間と空間を超越した表現」として用いる6度の跳躍で、旋律が始まり、これによって、「遠く 地の果てまで」という空間的・地理的広がりと、そこに救いがもたらされるまでの時間的経過が表されています。「す べてのものが」では、バスが半音階で上行し、それに伴って和音も変化し、さらに、「ものが」で、旋律が再び6度跳 躍し、「すべてのもの」という、量的数的多さが暗示されています。 「かみの」では、旋律が最高音になり、旋律とバスも2オクターヴ+3度に開き、王である神の偉大さが示されま す。「すくいを」は、旋律が最低音(ミサの式次第のそれと同じ)となり、救いが地に訪れた様子が伺われます。「すく いを見た」では、アルトに臨時記号〔Des(レ♭)〕を用いることで、答唱句をていねいにおさめるとともに、ことばを意識 することにもなっています。 詩編唱は、主音F(ファ)から始まり、上下に2度動くだけですが、1小節目では終止の部分で音が動き、ことばを強 調します。4小節目は属調のC-Dur(ハ長調)に転調しことばを豊かに表現するとともに、そのまま答唱句の冒頭へと つなぐ役割も持っています。 【祈りの注意】 答唱句は、解説でも述べた、「時間と空間を超越した表現」として用いる6度の跳躍で始まりますから、この「遠く地 の果てまで」という表現にふさわしく、祈りの声を表現しましょう。ユダヤから見れば、この日本はまさに遠い地の果て です。この日本にキリストによる救いがもたらされるまで、二千年近い時間もかかりました。しかし、わたしたちは確 かにキリストによる神の救いを見て、それを信じているのです。この確信を込めて、答唱句を歌い始めましょう。その ために「果てまで」の付点四分音符は十分にのばし、その後一瞬で息継ぎをします。「すべてのものが」は、やや早 目にすると、臨場感があふれます。最後の「が」は、その前の「の」にそっとつけるように歌うと、ことばが生きてきま す。決して「ものがー」と歌ってはいけません。「かみ」はアルシスの飛躍を生かします。最後の「救いを見た」は解説 でも書いたとおり、アルトに臨時記号〔Des(レ♭)〕を用いることで、答唱句をていねいにおさめるようになっています から、決してぞんざいにならないように、まことに、わたしたち一人ひとりが「神の救いを見た」という確信を込めたいも のです。 詩編唱は、第一朗読で読まれる、エルサレムの再建への賛美とともに、福音朗読で読まれる、イエスが「最初のし るしをガリラヤのカナで行って、その栄光を現された」(ヨハネ2:11)ことにも深く、結び付けられます。イエスがカナの 婚宴で最初に現された栄光は、最終的には、その過越が頂点となります。このイエスの栄光を見たものは「すべての 国にその栄光を語り、すべての民に不思議なわざを伝え」(詩編96:3)られずにはいられないはずです。その熱意を 持った人々が、イスラエルから見れば地の果てである日本にまで、この栄光を伝えに来てくださったのです。その、 熱意をわたしたちも受け継いで行きたいものです。 最後に技術的なことですが、各小節で音が変わるところ、特に1小節目の最後のところでは、間をあけないで滑ら かに続けるようにしてください。 【オルガン】 この主日から、年間の主日になります。同じ、答唱句でも、降誕節とは、やや、趣が異なるのではないでしょうか。 音色は、やはり、フルート系の8’+4’がよいでしょう。前奏のとき、「すべてのもの」を少し早めに弾くこと、「ものが」 のあとの八分休符をきちんと聞かせること、に注意を払いましょう。休符というのは、音がないのではなく、「ない音」 がある状態です。この「ない音」によっても、祈りの流れと緊張が保持されています。黒鍵から白鍵への半音進行が たびたび出てきますが、手で弾く場合は、どの指も、うまく滑らすことで、レガートで弾くことができます。祈りの基本で ある、レガートを保つためにも、その練習もおろそかにしないようにしましょう。しかし、すべては、会衆の祈りを支え、 祈りを深めてゆくことを忘れないでください。 ジャンル別一覧
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